完全片麻痺症例

完全片麻痺症例

完全片麻痺症例(Brunnstrom stage Ⅰ)への足こぎ車いすの応用

表1に脳血管障害で片麻痺を呈し、そのBrunnstrom stage がⅠ、Ⅱの症例の属性と足こぎ車いす最大走行速度を示します。
ここではBrunnstrom stage Ⅰ の症例は3 名で、いずれも足こぎ車いす駆動が可能で、その最大走行速度は平均約47m/ 分と実用的な走行速度のレベルに達していました。

完全片麻痺症例への足こぎ車いすの応用

表1 足こぎ車いすを適用した重度片麻痺症例の属性と足こぎ車いす最大走行速度

 

足こぎ車いす走行の連続スナップショッ

図1-a 外転・外施防止ベルトなしでの駆動
図1-b 足こぎ車いす走行の連続スナップショット外転・外旋防止ベルト (商品名:レッグアシスト)装着して駆動1 ~ 5 までの走行時間:1 秒

図1は、脳梗塞発症後3 カ月の時点で左完全片麻痺(Brunnstrom stage Ⅰ)を呈していた患者(70 歳、男性)が、初めて足こぎ車いすを駆動した際のビデオより編集したものです。
 この患者は、ほとんど寝たきりで端座位にも介助が必要だったのですが、足こぎ車いすに乗せハンドルの操作方法を教えただけで、自ら漕ぎだすことができました。

図1-a は、乗車直後股関節の外転・外旋を防ぐベルト(商品名:レッグアシスト)を付けないで駆動している状態を示しています。しかし、この患者では股関節の外転、外旋が著明であったため、その後の駆動時にはレッグアシストを取りつけて走行してもらいました(b)。スナップショットの1 から6 まで要した時間は1 秒ですが、カメラの位置が若干変わっていますので速度までは計算できていませんが、およそ成人男性が速足で歩く速度くらいで走行していました。

下肢完全麻痺での走行

図2-a 患側足は固定式フットレストに置く
図2-b 健側下肢だけによる駆動 1:前進、2:前進の停止、3:後退

さて、ここで必ず出る疑問は、一方の下肢が完全に麻痺しているのだから、健側だけで漕いでいるのではないかということです。そこで、図2 に示す実験を行ってみました。その結果、健側下肢でべダルを0 度~ 180 度まで(後は惰性で200 度くらいまでは回転)自力で踏むことができますが(図2-b)、それ以上の自力走行はできませんでした。すなわち、この完全片麻痺の症例では、両下肢を使って漕いでいることになります。

完全片麻痺の症例 両下肢走行

図3 症例D(表2、左片麻痺、Brunnstromstage Ⅰ)における膝関節自動屈伸時(a)と足漕ぎ車椅子駆動時(b)の筋電図

 そこで、股関節、膝関節、足関節の主動作筋において駆動時の動作筋電図を導出しました。この症例では、麻痺側(左)下肢の自動屈伸時はいずれの筋にも筋活動が見られませんでしたが(図3-a)、足こぎ車いす駆動時には、健側のみならず患側の被験筋すべてに活発な筋活動が認められました(図3-b)。しかも、健側および患側下肢の筋活動を分析すると、おおむね相反性の発火パターンを示すことが判明しました。

同様の結果が他のBrunnstrom stage Ⅰの患者でも認められています。
 このように、足こぎ車いす駆動時、完全麻痺筋に健側と相反性の筋活動が認められますが、この交代性ペダル漕ぎ運動は一見健常者のものとほとんど変わらず、麻痺側がわからないほどです。このことは、足こぎ車いす駆動時において患側下肢の筋を制御する神経系の活動パターンが健常のペダル漕ぎパターンに近いものであることを示していると思われます。

 このような現象が起こることの一因として、

  1. 健側下肢の随意的なペダル漕ぎに始まった交代性のペダル漕ぎ運動は、両側下肢の皮膚、関節、筋などから感覚性の神経活動を惹起し、求心性に脊髄に入力される。
  2. この求心性入力が脊髄内の反射性の神経活動やcentral pattern generator(CPG)を含む中枢性神経回路網を賦活する。
  3. これによってペダル漕ぎ運動(ステッピング運動)を円滑に行うようにパターン化された神経出力が健側および患側下肢に出力される。

上記のことが考えられます。換言すれば、患側下肢が完全に麻痺していても、ペダル漕ぎ運動時の物理的刺激による求心性入力がステッピングに関与する中枢神経回路網を賦活化し、両側下肢による足こぎ車いす駆動を可能にしていると思われます。

 

出典:足こぎ車いすとリハビリテーション2012
※東北大学医学系研究科半田康延グループの研究に基づき掲載しています。効果には個人差があります。

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